2015年 03月 27日
Philippe Jarousskyフランス歌曲リサイタル |
今朝の新聞でも発表されていましたが、25日のPhilippe Jarousskyのリサイタルは、LCCの飛行機事故で無くなった方々にささげられました。
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今回のリサイタルは、フランス歌曲でした。
カウンターテナーがこの種の歌を歌うというのは彼が初めてだと思いますが、彼はすでに6年前にフランス歌曲のCDを録音していて、実は私は彼のさまざまなCDの中で一番好きだったので、今回のリサイタルをとても楽しみにしていました。
フランス歌曲も、ヴェルレーヌの詩に作曲されたものだけを選び、同じ詩に異なった作曲家が作曲したものを歌っていて、作曲家によってがらりと雰囲気が変わるのが面白いのです。
たとえば同じ Chanson d'automne (秋の歌)でも、Reynaldo Hahnはとてもメランコリックに、Charles Trenetはカフェで聞くシャンソンのような、全く雰囲気の違う曲になっているのです。
ステージに現れたジャルスキーとデュクロ氏は、いつもだったらノーネクタイか蝶ネクタイなのに、今日は追悼の意味を込めて、黒い細いネクタイを締めていました。
ステージ写真は禁じられているので、LiceuのFBからお借りしました。
© A. Bofill
リサイタルは、前半14曲を、後半は10曲を、途中で各二回のピアノ・ソロを挟んでメロディのように一気に続けて歌われました。
ピアノ・ソロの時は、ジャルスキーは音も立てずひっそりと退場し、ピアノは一秒も止まることなく、初めはPrelude de la Suite Bergamasque、二度目はIdylle de les Pieces pittoresquesを弾きましたから、かなり疲れたのではなかったでしょうか。途中、ピアニストのJerome Ducros氏はしきりに汗を拭いていましたから、気分が悪いんじゃないだろうかとはらはらしたくらいです。
スローでメランコリックな、また悲しい歌があると思うと、リズミックで楽しい曲もあり、変化に富んで聴衆をヴェルレーヌの世界に引っ張ってゆきます。
秋の歌
秋風の
ヴィオロンの 節ながき啜り泣き
物憂きかなしみに
わがこころ 傷つくる。
時の鐘
鳴りも出づれば、切なくも胸せまり。
思いぞでづる
来し方に 涙は湧く。
落ち葉ならね
身をばやる われも、
かなたこなた
吹きまくれ 逆風よ。
Reynaldo Hahn
Charles TrenetのChanson d'automne
月の光
そなたの心はけざやかな景色のようだ、そこに
見慣れぬ仮面して仮装舞踏の蛙差を、歌いさざめいて人々行くが
彼の心とてさして陽気ではないらしい。
誇らしい恋の歌、思いのままの世の中を、
鼻歌に歌ってはいるが、
どうやら彼と手自分たちを幸福と思ってはいないらしい
おりしも彼らの歌声は月の光に解け、消える。
枝の小鳥を夢へといざない、
大理石の水盤に姿よく立ち上がる
噴水の滴の露を喜びの極みに悶え泣きさせる
悲しくも身にしみる付きの光に溶け、消える。
フォーレの Clair de lune
フォーレ Prison
空は屋根の上にありて
青く静かに澄み渡る
木は屋根の上にありて
ゆらゆらと枝をゆする
鐘は空の彼方に
やさしくも響き渡る
鳥は梢の彼方に
嘆きの歌を歌う
神よ 我が神よ 人生は
何事もなく静かに過ぎ行く
かの平和なささやきは
街の方より聞こえきたる
何をしたといって そこ鳴る君よ
さめざめと泣き続けるのか
何をしたというのだ そこ鳴る君よ
悔い改めるに遅すぎはしない
コロンビーヌ
うつけ者のレアンドル、
つづくがピエロ こやつは蚤
藪を飛んだよ、ひとまたぎ、
カサンドル剽軽に 法師頭巾と洒落込んだ、
アルルカンまでついて来る
この出鱈目のかたりこき。
派手な仮装
仮面のかげの 目がきつい、
ド、ミ、ソル、ミ、ファ
一同は騎虎の勢い 笑ったり歌ってみたり、
踊ってみたり、
つんとすました 美形ひとりを取り巻いて
雌猫みどりの
目ほどに変わる 女の目つきの思わせぶり、
「手出し法度!」に
なおいきりたち われもわれもと
ご連中まだまだ後を追うつもり
とめてとまらぬ 星の運行
ああ、さては、
この鼻下長の一群を どんなみじめな災難へ
連れ込む気やら、
帽子に派手なばらの花 ひだり褄
裾も軽げにしゃなしゃなと、
したたか者の これな美形め!
Poldowsky Colombine
こちらはアンコールで歌われたBrassensのColombine
繰り返しの部分は、バリトンの声で歌われ、最後のパンパンパンは、口笛を吹いて、それがあまりうまくできなかったので、「あらま」と言わんばかりにちょっと口を「ヘ」の字にして見せたところがおかしかった。
アンコールの前に、何やら白い紙をもって登場。
スペイン語はもう流暢に話せるジャルスキーですが、今度はカタラン語で紙に書いてあって曲の説明をしました。みんな大喝采。
サービス精神旺盛なんですね。
初めはオペレッタのFisch-ton-kan。 これはCDではクワルテットと一緒に歌っていて、みんながコーラスに加わるのですが、この時はピアニストのデュクロさんだけがピアノを弾きながらコーラス部分を歌っていました。
で、2曲目のアンコールが、上のコロンビーヌ。
3曲目は、「すべての飛行機事故の犠牲者のために」と前置きをして歌われた アーン作曲の L'heure exquise"
涙が出るほど美しかった。 でももう声が疲れていて、高音で長く伸ばすフレーズが続かなかったのですが、みんなその美しさに涙したと思います。
本当にジャルスキーの繊細さと音楽性を堪能できたリサイタルでした。
ピアノのデュクロ氏は、弾きっぱなしだったので相当にお疲れだったと思いますが、最後のソロ I'lsle joyeuse(ドビュッシー)はすごかった! フランス歌曲のピアノのパートは、歌がなくても十分聞けるほどすごい曲が多いのですね。伴奏というより、歌とピアノがほとんど同じ比率だと思います。ただ、ジャルスキーのあまりの繊細な歌唱に、ちょっと強いかな、と思ったときもありました。
終わった後は、サインをもらえるというので、またものすごく長い列ができました。
サイン会に現れたジャルスキーは、ジーンズのシャツというラフなスタイル。
一人一人にサインし話を聞き、写真まで一緒に撮らせてあげて、大変なサービスぶり。
サイン会は12時ころまで続いていたようです。本当にご苦労様!
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by gyuopera
| 2015-03-27 00:29
| オペラ、コンサート musica
|
Comments(4)
Commented
by
yokodak
at 2015-03-27 20:56
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Gyuさん、素晴らしいリサイタルだったようですね!
普段はバロックばかり聴いていますけれど、ジャルスキーの歌うフランス歌曲は繊細で表情豊かで大好きです。時には短いお芝居を見ているかのようにドラマチックだったり、淡々とした中にはっとするような美しさを見つけたり…目の前に様々な風景や色彩が広がるのです。
ヴェルレーヌをフィーチャーしたこの試みは意欲的ですよね!ブラッサンスやフェレのシャンソンが入っているのには驚かされましたけど、ヴェルレーヌの詩が現代においても愛され続けていることがよく解ります。
ポルドウスキ(ヴェニャフスキの娘だったとは!)やセヴラックなど、珍しい作曲家を取り上げているのも、バロックのマイナーな作曲家に光を当てる活動をしている彼ならでは。最近、日本の若手CTでアーンの楽曲をリサイタルで歌う人も出てきました。この決して有名ではない作曲家とも、彼のフランス歌曲を聴かなければ出会えなかったかもしれません。
飛行機事故の犠牲者の方々に捧げられた「L'heure exquise」…とても好きな曲の中のひとつです。
普段はバロックばかり聴いていますけれど、ジャルスキーの歌うフランス歌曲は繊細で表情豊かで大好きです。時には短いお芝居を見ているかのようにドラマチックだったり、淡々とした中にはっとするような美しさを見つけたり…目の前に様々な風景や色彩が広がるのです。
ヴェルレーヌをフィーチャーしたこの試みは意欲的ですよね!ブラッサンスやフェレのシャンソンが入っているのには驚かされましたけど、ヴェルレーヌの詩が現代においても愛され続けていることがよく解ります。
ポルドウスキ(ヴェニャフスキの娘だったとは!)やセヴラックなど、珍しい作曲家を取り上げているのも、バロックのマイナーな作曲家に光を当てる活動をしている彼ならでは。最近、日本の若手CTでアーンの楽曲をリサイタルで歌う人も出てきました。この決して有名ではない作曲家とも、彼のフランス歌曲を聴かなければ出会えなかったかもしれません。
飛行機事故の犠牲者の方々に捧げられた「L'heure exquise」…とても好きな曲の中のひとつです。
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gyuopera at 2015-03-28 07:54
yokodakさん、こんばんは。
はい、本当に素晴らしい、内容の濃いリサイタルだと思いました。私はドイツリートがとても好きなので、フランス歌曲は少し違いますが、こういう繊細な歌い方で、その魅力が引き出されると思います。
リサイタル評はあまりよくないものが出ましたが、でも聴衆が満足していたことは、後のサイン会に非常に多くの人が並び、1時間半もやっていたことで説明がつくと思います。
はい、本当に素晴らしい、内容の濃いリサイタルだと思いました。私はドイツリートがとても好きなので、フランス歌曲は少し違いますが、こういう繊細な歌い方で、その魅力が引き出されると思います。
リサイタル評はあまりよくないものが出ましたが、でも聴衆が満足していたことは、後のサイン会に非常に多くの人が並び、1時間半もやっていたことで説明がつくと思います。
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yokodak
at 2015-03-29 22:49
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ドイツの公演では素晴らしい評が出ていましたけれど、彼も人間ですからやはり疲れも出ていたのでしょうか?いつもパーフェクトというわけにはなかなかいかないのですね。それにしても生のコンサートはやっぱり良いですよね〜♪
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gyuopera at 2015-03-31 05:42
yokodakさん、2度もコメントありがとうございます。
初めに出たコンサート評は、評ではなく、あるマニアックな方のブログだったのです。ここでオペラ評論家としては第一人者のRoger Alier氏が評をLa Vanguardiaに書いていて、とても良かったですよ。安心しました。あんなに素晴らしいリサイタルだったのに、あらさがしばかりして何とかこき下ろしてやろうといった人もいたのは残念ですが、そういう方は、先入観に固まっていて、自由なものの見方、繊細な音楽が耳に届かないのでしょう。
CDもとても良かったけれど、生のコンサートは格別ですね。
アンコールの最後は、さすがに声が疲れていましたが、美しさにかけては抜群でした。
初めに出たコンサート評は、評ではなく、あるマニアックな方のブログだったのです。ここでオペラ評論家としては第一人者のRoger Alier氏が評をLa Vanguardiaに書いていて、とても良かったですよ。安心しました。あんなに素晴らしいリサイタルだったのに、あらさがしばかりして何とかこき下ろしてやろうといった人もいたのは残念ですが、そういう方は、先入観に固まっていて、自由なものの見方、繊細な音楽が耳に届かないのでしょう。
CDもとても良かったけれど、生のコンサートは格別ですね。
アンコールの最後は、さすがに声が疲れていましたが、美しさにかけては抜群でした。